医療等IDに関わる法整備に対する日本医療情報学会の提言

日本医療情報学会では、2012年10月17日、厚生労働省「医療等分野における情報の利活用と保護のための環境整備のあり方に関する報告書」 に関する意見募集に対して、以下の意見表明を行っています。

「社会保障・税番号制度」では、医療・介護等の分野(以下「医療等分野」) について統一的な番号を用いるためには、「特別の措置」が必要だとされている。医療や介護の情報(以下「医療情報」)の特徴として、きわめて多くの国民に関わるものであること、本質的に機微性が高い情報であること、同時にそれが蓄積され利活用されることで医療が発展し社会全体の利益となること等が挙げられる。このような医療情報の特殊性のもと、それを取り扱う基盤としての番号(ID)についても、特別の措置が必要とされることはきわめて妥当と考える。
一方で、医療等分野における公的な患者等の番号については、複数の施設で同一の個人を間違いなく識別し、長期にわたって追跡することを可能とするもので、その利便性は高い。特に、医療情報取り扱いの電子化が普及し医療連携が推進されている昨今において、そのような番号の重要性はますます高まっている。

他方では、そのような番号は、反社会的な使用においても、利便性が高いのも事実である。医療情報の利用、とりわけそのような番号を通じての使用が、そのようになるべきでないことは言うに及ばず、新たな差別を生み出すことがないこと、また、日本の医療体制で保険給付の範囲内でも認められているフリーアクセスを阻害することがないことが、前提となる条件であり、医療施設間情報連携の推進、臨床・疫学研究の推進、などは、その条件のもとに行われるべきである。

そのため厚生労働省においては医療等分野における番号制度について前向きに検討を進めることを期待するものであるが、先述のような医療情報の特性に鑑み特に考慮すべき事項があるものと考え、日本医療情報学会は以下を提言する。

1.医療等分野における個人情報保護法の個別法について

1)医療情報の管理・取り扱いについては、医師・診療施設のみに責任を帰することが適切でない場合もあり、これらの者の負担が過大となっている面がある。
一般業務として医療情報を取り扱う際の責任についても明確化し、責任分界について明確にすべきである。

2)医療情報は保護されるべきものであるが、その特性に鑑み、適切な利活用が阻害されることがないよう充分に考慮すべきである。たとえば臨床・疫学研究において、匿名化など必要な措置を行えば、過度に煩雑な手続きや審査を経ることなく医療情報を、今以上に襟を正して堂々と利用できるようにすべきである。
但し、臨床・疫学研究の形式を採っているものの、営利など公益でない使用があり得ることを充分に考慮すべきである。

3)災害時などで医療情報の取り扱いに過度に慎重となり適切な医療の提供が困難となるといったことが起こらないよう充分に議論を行うべきである。

2.医療等分野で用いられる共通 ID番号のあり方について

1)医療等分野の番号は複数施設間の情報の紐付けに有用であるものの、これまでは患者側が自らの意思で他院での情報を提示することで初めて他施設の情報が伝わっていた。更には「情報が他施設にある」という事実自体をそもそも伝えるか否かについては患者側が選択してきた。医療等分野の番号においても患者の権利が損なわれることのない運用が可能となるよう、希望すれば一個人が複数の番号を持てるようにすべきである。この場合でも後になってその選択を変更し、紐付けるよう希望した場合に対応できるようにすべきである。

2)当該制度が社会的基盤のひとつとして有効に機能し、最大の公益をもたらすためには、悉皆性があること(全ての住民が最低ひとつの番号を持つこと)が重要である。このためには、番号を付けられることでの不利益や危険性について充分に検討・精査し、配慮がなされなければならない。

3)現時点においては、医療等分野で使われる共通番号について、「国が国民の医療・健康情報を把握し管理できるようになる」との懸念の声が聞かれるなど、厚生労働省の説明に反した意見が少なからず見受けられる。そのため、この番号は、医療等分野(医学的研究目的を含む)でのみ使われるものとし、マイ・ナンバーなど他の番号をそのまま使うことは避けるべきである。そしてそのような他の番号との紐付けは、前段で書かれた個人情報保護法医療個別法によって正しく運用されるべきである。

3.今後の連携のあり方について

患者情報の施設間連携が推進されることにより、診療施設等に過度な量の情報が提供され、受け取る側はそれを処理し把握することが困難であるにもかかわらず、情報は提供されていたのに見落としたというリスクを生み出す可能性がある。情報を提供する側が提供する情報を吟味し、継続的診療に寄与するサマリーを作成するといった、医療者にしかできない高度な作業に対して応分の評価を与えるなど、充分な配慮がなされるべきである。

以上